「いつか、会えたら」 

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「七夕って、一年に一回だけオヒリメさんとヒコボシさんが会える日なんだって」
 空を見上げたままの光麗が、呟くようにそう言った。隣に座っていた涼潤は、彼女が何を言おうとしているのか分からずに首を傾げる。
 夜空には小さな星達が無数に煌めいている。落ちてきそうな程、と誰かが表現しているのを聞いた事があった。彼らが一斉に落ちたら、この辺り一帯には光のシャワーが降り注ぐのだろうか。光麗の言葉の続きを待ちながら、涼潤はぼんやりとそんな事を考えていた。
「お互いに大事な人同士なのに、会えなくなっちゃって。それで、一年に一回だけ会えるんだってお母さんに聞いたんだ」
 涼潤に話していると言うよりは、独り言に近いのかも知れない。吐き出したかった言葉を、そっとじわりと外に流しているような。そんな話しぶり。
「風じゃなくて?」
「うん。風さんは現実のことを教えてくれるけど、物語のことは知らないから」
「物語、なの?」
「うーん、どうなんだろう。本当かもしれないし、作り話なのかもしれないって、お母さんが言ってたの」
「そっかぁ」
 どこにでも昔話や言い伝え、伝説、そういった類のものはあるだろう。場所や人との繋がりによってそれは変わってくるのだろうが。涼潤は、オリヒメとヒコボシの話は聞いたことがなかった。

「大事な人と会えないって、辛いね」
 オリヒメとヒコボシがどういった間柄なのかは知らない。勝手な思い込みかも知れない、けれど聞き流せなくて。なんとなく、涼潤はそう呟いた。
 間が空いたまま返事はない。
 首を傾げられているのかと思い誤魔化すように笑って光麗の方を向くと、そこには少しだけハッとした表情の光麗がいた。その表情に、逆に涼潤が戸惑ってしまう。
「あっ、ごめん。変なこと言ったね」
「ううん。光も会えないのは、つらいもん」
 首をふるふると振り、少しだけ淋しそうな顔をして見せた。
「一年に一回だけでも会えるんだったら、我慢できるのかなぁ」
「…、一回会えちゃったら、あたしだったら次の日も会いたくなっちゃうな」
「なっちゃう!なっちゃうよね!オリヒメさん達すごいなぁ」

 そういう人がいるの?
 なんて聞けなかった。
 ただ、そういう人がいるんだ、と思っただけで。

「でもまぁ、一生会えないよりは、一回でもいいから会いたいなぁ」
「うん」
 頷いた光麗が、不意にクスクスと笑い出した。笑う理由が分からず、涼潤はきょとんとする。涼潤の様子に気付いた光麗は、申し訳なさそうに、けれどすぐににっこりと笑った。
「ごめんね。ちょっと、風さんが面白いこと教えてくれたから」
「面白いこと?」
「うん」
 返事のあともにこにことしている光麗から、話の続きを聞くことが出来ない。どうやら"内緒"の事のようだ。風の声が聞こえない涼潤には、話の内容を知る手立てはなかった。
「ずるいなぁ」
「えへへ」
 悪戯っこく笑う光麗に、涼潤もつられて笑うのだった。


 空には星、無数の願い。
 いつか叶うことを信じて、その日まで。


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