【TTSS】お題:電車 

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がたごとと規則的に音を立てながら、窓の外の景色は足早に通り過ぎていく。
ついさっき見えた大きな木はもう遠くへと消えてしまった。
前方には運転手さんがいるはずだが、ガラスをはめた扉に閉ざされて、今この空間には私一人だけしかいなかった。
ほんの数秒前までは。
私が景色から目を離した時、誰もいなかったはずの通路に一人の女の人が立っていた。
真っ黒な服は、夏空の下にはとても似合わない。
向かいの席に座る訳でもなく、こちらを見る訳でもなく。
彼女は進行方向に視線を向けてじっと立っている。
私に気付いてないのかな。そう思ったけれど、その前にこの人は一体どこから現れたのだろうか。
鈍感な私にも、流石に普通の人間ではない事くらい分かる。
もし人間なら観客がいないのに頑張ってしまった有能な手品師だ。
その場合、観客は私だろうか。運転手さんも呼んでくればいいのに。
女の人に声を掛けるべきかどうか迷った。
女の人―――というには、もっと幼いかもしれない。
表情が無くて年頃は分からないけれど、私と同い年と言われても、上と言われても下と言われても頷いてしまいそうだった。
あと10秒待ってみて、この人が消えなかったら。
私は頭の中でカウントダウンを始めた。



「あの」
10を数えて、おまけに5も数えてみたけれど、女の人はそこに立ったままだった。
声が小さかったのか、私の声には気付いていない。
「あの…っ!」
さっきよりも大きめな声で呼び掛ける。
すると、ハッとしたように女の人は私を見た。
驚いてくれたのだろうか。でもそう感じただけだったのかもしれない。
表情は何も変わっていない気がした。
「何してるんですか?」
突然現れた人物に掛ける言葉なんて私は知らない。
けどこれは正解だったんだろうか。誰かに聞きたいけど今聞けるのはこの女の人だけだ。
「どうして?」
聞こえた声は、思っていたより幼い気がした。やっぱり私と同じくらい?
「どうして、見えるの?」
私の事を見ていて、というか私しかいないのだから私に向けられている言葉だと思うのに、どうしてもどこか遠くに投げられているような気がして返事に迷ってしまった。
それになんて返せばいいのか分からない。
「どうしてって言われても…」
唸ってみても答えは出て来ない。
心当たりは………無い。
「私は、場所を間違えただけだから」
女の人はまた進行方向を向いて、そう呟いた。視線を逸らされてしまった。
「ごめんね、気にしないで」
私が首を傾げて、それから口を開こうとした時には、もうその姿は消えてしまっていた。
………私は、夢でも見ていたんだろうか。
そういえば夕べはあまりよく眠れなかった気が…しないでもない。いつも通りだったかもしれない。

まぁ、夏だし………なぁ。
そう思って、納得しておく事にした。


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15分…18分くらいだったかも。
縛り早速無視したぞ!!
一人称が書きたくなる時も…あるのです…

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