スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

【TTSS】お題:電話(昨日の続き) 

+++++

「渓汰ー?」
呼び掛ける声に返事はない。
椏夢と晞沙は、人通りの少ない道をゆっくり歩いていた。時間の割に陽はまだ少し高い位置にいる。
晞沙の話では、渓汰はこの道を晞沙と二人で歩いている時に、不意にいなくなってしまったのだという。
隠れられるような場所は少ない。
用水路に引きずり込まれて連れ去られちゃったんじゃ…そう泣きそうになりながら話す晞沙を宥めるのはもう何度目だったろうか。
歩いた先、椏夢は足を止めた。
そこは用水路の上を道路が走る、小さな橋となっている場所だった。
一点を見つめる椏夢の視線の先に、晞沙は何も見る事はできなかった。
「どうやら、あの方も少し困っているみたいです」
暫く黙っていた椏夢は、そう言って柔らかく笑った。
当然晞沙は首を傾げるばかりである。
橋の横まで歩いた椏夢は、ぐっと身を乗り出し橋の下を覗き込む。
前日に雨が降っていればそこは雨水で埋まっていただろうが、今日はそうではなかった。
「賑やかそうですね」
用水路の淵に器用に腰掛けた少年が、びっくりしたようにこちらを見ているのを見付けた。
「あ、あゆ兄~」
観念した声で青年の名を呼ぶと、少年、渓汰はしょんぼりと肩を竦めた。
けれどすぐにハッとして椏夢を見る。
「ねーちゃん、いる…?」
「いるよ」
椏夢の優しい声に、今度こそ本当に渓汰は肩を限界まで落とした。

細い用水路の淵を綱渡りのように歩いて橋の上へと上がってきた渓汰に、晞沙はまず一発げんこつを喰らわせた。
けれど彼が抱きかかえていた子猫を見付けると、黙り込み、そうしてもう一発げんこつを喰らわせたのだった。
痛がる少年とぷんと怒っている少女を置いて、椏夢は何も見えない空間へと向き合っていた。
「疑ってすみません。貴方は関係なかったんですね」
そう伝えると、椏夢はふわりと笑う。
様子に気付いた晞沙は恐る恐る彼に近付き、そして耳打ちする。
「あの、なんて」
「ここにいる方を渓汰君が見掛けて近付いてきたらしいんですが、その後用水路に落ちてしまっていたあの子猫を見付けたそうなんです。それで渓汰君、あんな所に」
上れなくなった子猫を見付けても幽霊では助ける事ができないから、嬉しかったそうです。そう椏夢は付け足した。
「じゃあ、連れ去られたわけじゃないんだ、よかった…」
そうほっと息を吐き、けれどすぐに少年へと振り返る。
「って、よくない。危ないでしょ、一人であんな所に行ったら!」
「だってかわいそうだったんだもん」
子猫を抱きかかえたまま、渓汰はそう言った。
渓汰の言葉に反応したのか、子猫はうなーんと上を見上げて鳴いた。

ふわりと。
唐突に光が飛んだ。
子猫がびっくりしたように短く鳴き、そしてすぐに腕を動かして光を捕まえようとする。
晞沙も渓汰も驚くが、すぐにその正体に気付いて表情を和らげた。
椏夢は相変わらず微笑みながら、その光を目で追っていた。
やがてふわふわと、数が増えていく。
「ホタル…こんな所にも出るんだ」
晞沙がそう呟くと、椏夢はゆっくり頷いた。
「このホタルを、見たかったそうなんです」
光を見つめながら椏夢はそう言った。
「毎年楽しみにしていたそうで、だからまだ消えたくなかった。だから長い事留まっていたんですね」
さわさわと風が流れ、草を揺らしていく。
「綺麗ですね」
それは、晞沙には見えない人物へと投げられた言葉だった。


+++++



25分。時間オーバーだけど終わりまで持っていきたかったので。
オチを全然考えずに突っ走ってたら地元の用水路を思い出したので舞台のモデルはそこなんだと思う。
昨日の続きではあるけど電話全く関係ないね!

コメント

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://saule495.blog82.fc2.com/tb.php/1519-fb893bd3
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。